日本全域の震源域別地震発生パターン〔特徴・特性〕と地震発生プロット〔アーカイブズ・ベース〕に予兆を見出す一方法の提言・提示

~東日本大震災の予兆現象を振り返って: 地震は『震源地』で起きている!
『震度』は人間都合!!『マグニテュード』は地球都合!!!~

日本地震予知学会 第3回(2016年)学術講演会:荻原洋聡

1 はじめに〔問題認識・思考過程〕

2011年3月11日1446i。筆者は海上自衛隊八戸航空基地に所在する機動施設隊司令執務時、この瞬間に直面。筆者にとり東日本大震災が「他人事」から「自分事」への劇的な意識大転換となる瞬間だった。
しかしながら当時を顧みると、それに先立つ3月9日から、三陸沖を震源とし津波発生を伴う群発地震が続いており、悪い予感が消えることはなかった。3月9日にはM7級以下が21回、10日にはM6級以下が15回発生していたからである。胸騒ぎが収まらず10日の朝、急遽隊員を集めて地震メカニズムと簡単な液状化実験を展示・説明して、万が一の腹案を持つように指示した。翌11日に至るも余震が続く中、緊急地震速報とともに1446iの本震に遭遇した。その後一向に収束する気配の無い地震発生状態の現実の在りのままを把握したいと考え、テレビ画面に映る地震情報をエクセルシートにプロットすることから開始した。それが本報告に用いるデータベース(1994年~2016年分継続中)の起源となっている。
その考え方〔切り口〕は、日本全国で発生する震度1以上の地震発生データ〔気象庁インターネット〕を、気象庁定義による震源域別に、一日単位で、発生マグニテュード階級別に地震発生回数を★で可視化プロットし、発生回数を集計するだけの単純な地震発生履歴表である〔表-1~表-3(全体の一部を抜粋)〕。

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表1:三陸沖〔赤〕と連鎖・連動した震源域〔緑〕


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表2:三陸沖〔赤〕に遅れて発生した震源域〔青〕


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表3:三陸沖〔赤〕に遅れて発生した震源域〔青〕


図-1に、日本全国において1994年から2015年の過去22年間に発生した震度1以上の年間地震発生累積回数〔Z軸〕を、各年毎〔X(時間)軸〕・震源域毎〔Y(空間領域)軸〕に3D棒グラフで示した。

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図-1: 1994年~2015年別・震源域別・地震発生回数


総観すると(ⅰ)北海道、九州、沖縄は当該期間を通じ発生頻度が定常的で、(ⅱ)2010年までは、所々に見られるピークが過去に発生した各イベント(事象)に相当していること、(ⅲ)2011年以降は東日本域での発生頻度が激増していることが顕著である。
本稿で言及する主要な事象は以下のとおりである〔図-1中の各○番号〕。震度階級定義後に発生した震度7級の地震が、1995年阪神淡路大震災〔9年〕2004年中越地震〔7年〕2011年東日本大震災〔5年〕2016年熊本地震〔 年〕と、発生間隔が短縮化(地震活動活発化)する傾向が懸念される。
1 三陸はるか沖地震 〔1994年12月28日~〕
2 阪神淡路大震災 〔1995年01月17日~〕
3 有珠山噴火 〔2000年03月27日~〕
4 三宅島噴火 〔2000年08月18日~〕
5 鳥取県西部地震 〔2000年10月06日~〕
6 新潟県中越地震 〔2004年10月23日~〕
7 東日本大震災 〔2011年03月09日~〕
8 H28年熊本地震 〔2016年04月16日~〕

2 東日本大震災直前の局地的スケールの予兆現象

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図-2: 東大地震研究所:朝日新聞2012.1.20


図-2に、東大地震研究所が2012年1月20日に発表した記事内容を図化する。東日本大震災では、2011年2月中旬~2月末にかけて、三陸沖でM5級の「ゆっくり滑り」地震が6回発生し、再び3月9日から発生した震源から、小さな地震を起こしつつ南下し、その「ゆっくり滑り」で歪が限界に至り、3月11日1446iの本震に至ったと解析したものである。
この一連の2回の現象が、東日本大震災の予兆現象として捕捉・認識されていれば、予知情報として活用され、ひいては注意喚起・被害極限に寄与していたはずだという後悔の念が未だ消えない。それが、本研究の動機の根源に在る。
この2回の前兆現象および、一連の地震発生状況が、地震プロット上にどのように現れるか(可視化されるか)を表-1~表-3に示す。各表中、東日本大震災の震源域となった三陸沖を「赤色」で、3.11の本震と同時に連鎖・連動した震源域を「緑色」で、翌日(3.12)以降群発地震が追随・発生した震源域を「青色」で着色している。
(1) 第1フェーズ〔2011年2月中旬~2月末〕
表-1の三陸沖で、2月16日にM6級が2回、同22日にM5級が1回、同26日にM5級が1回、続けて27日にM4級が1回発生した。この発生過程(期日・回数)は、東大地震研究所の解析で示された第1回目の「ゆっくり滑り」地震と一致している。
(2) 第2フェーズ〔2011年3月9日~本震~〕
同じく表-1の三陸沖で、3月9日には津波を伴うM7級以下の群発地震がこの日だけで21回発生開始した。この地震に違和感を覚え、翌10日朝の地震ブリーフィングに至った。余震は10日にM6級以下が15回発生し、3月11日には本震となったM9級以下が11回発生して甚大な被害を引き起こすことに至った履歴も東大地震研究所の解析と一致している。
この切り口によるプロット作製で、全国各地の震源域毎の地震発生パターンの相違が顕著に可視化されるようになった。その特徴を次に述べる。

3 遠隔の震源域間の中規模の時空間スケールでの相互・相関関係
〔2011年03月11日以降の気づき〕

表-1~表-3を俯瞰すると、東日本大震災においては、三陸沖震源域内だけでなく、三陸沖震源域と遠隔震源域間との相互関係があるように見える。
(1) 表-1:三陸沖〔赤色〕と連鎖・連動した震源域〔緑色〕との相関関係
まず、3月11日1446iの本震をトリガーとして、連鎖・連動して破壊されたプレート(岩盤)の大きさは南北500キロ、東西200キロに及び3回の巨大地震が連続した地震となった。それは、表-1に「緑色」で着色した震源域〔岩手、宮城、福島、茨城〕とも一致している。
(2) 表-2及び表-3:三陸沖〔赤色〕に遅れて地震発生した震源域〔青色〕
〔三陸沖(最上段)と千葉・関東~新潟~長野~岐阜~阪神の地震発生時空間状況(2011.2.16~4.5)〕
一方、表-2及び、表-3に青色で着色した震源域は、翌3月12日になってから群発地震を発生させている。それは、各プレート縁辺部に相当しており、千葉・関東地区と、新潟、長野、岐阜、阪神、紀伊半島等の静岡・糸魚川沿いの断層帯に沿う各震源域に顕著に見出される。
(3) 特に注目されるべき事象は、東日本大震災の予兆とされる2回の「ゆっくり滑り」のうち、第1回目の2月26日・27日にかけて三陸沖で発生したM6級の2回の地震に呼応する如く、翌日2月27日に至って岐阜・飛騨地方において、M5級以下の群発地震が突発的に24回も発生している点である。
これは、3月11日の三陸沖の本震に呼応して翌3月12日に静岡・糸魚川沿いの断層帯に沿う震源域(岐阜・飛騨地方含む)に群発地震が発生した機構と同様の発生パターンであり、本震約2週間前の時点でこの地域に現れていた。地球による警告・予告とも言える一予兆現象であったことは否めない。
総括すると、『三陸沖は太平洋プレートの沈み込みにより歪が蓄積していたが、それが「ゆっくり滑り」の2回目の3月11日1446iに至り、3連動の断層破壊による東日本大震災となった。それまでは日本本土内は圧縮ストレスを受けていたが、本土側の海底地層が東に24m変移・鉛直方向に3m跳ね上って相対的に圧縮ストレスが解放され、その結果、翌3月12日に、静岡・糸魚川沿いの断層帯で群発地震(正断層破壊)を誘発した。地震強度・規模の差はあるものの、本震前・後に類似予兆現象が発生していた。』との仮説が成り立つ。

4 遠隔の震源域間の地球大規模の時空間スケールでの相互・相関関係
〔2011年03月11日以降の気づき〕

(1)三陸はるか沖〔1994年12月〕 阪神淡路大震災〔1995年01月17日〕に先立つ関連事象
1994年10月4日に北海道東方沖地震が発生し、その年末12月28日に三陸はるか沖地震が発生した〔図-3〕。その後、1995年元日~7日及び1月13日~14日にかけて三陸沖での余震が続き、そして1月17日に阪神淡路大震災が発生している〔図-4〕。北海道東方沖・三陸はるか沖・阪神淡路大震災と、日本列島太平洋沿いの震源域間に海底プレートの北東から南西へと向かう歪の移動(流れ)が、プレート境界に沿って蓄積・伝播し、その歪の許容限度を超えた時に地震発生に至るパターンとして認識される。

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図-3:1994年日本全国震源域別地震発生回数


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図-4:1995年日本全国震源域別地震発生回数


この類似した地震発生イベント・伝播パターンは西暦2000年にも発生していることが認められる。図-5に示すように、① 有珠山噴火 ② 三宅島噴火 ③ 鳥取県西部沖地震と、日本列島の北東から北西に向かうフェーズで各事象が発生している。

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図-5:2000年日本全国震源域別地震発生回数


(2) 福島県沖〔2010年3,6,9月〕新潟・阪神・岐阜方面 東日本大震災〔2011年02月~03月〕
2010年の3月・6月(福島県沖)及び9月(中通り)に地震が発生し、特に9月の際はその直前・直後に新潟及び阪神方面で群発地震が発生している。プレート境界沿いの遠隔震源域に関連する連鎖的地震発生でありその6ヵ月後の東日本大震災の予兆現象と捉えることができるか否か、検証の必要がある〔図-6・図-7〕。

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図-6:2010年日本全国震源域別地震発生回数


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図-7:2011年日本全国震源域別地震発生回数


5 おわりに
~原点に還って、「大河の流れ」のように? そして今後の未来予想図~

地震はなぜ起こるのか?という原点に立ち還ってみる。今日、地震の原因(駆動力)として考えられているのはプレート・テクトニクス理論〔地球流体規模〕である〔図-8・9〕。太平洋プレート等〔地球海底全面〕の動きは3スケールの駆動力:GLOBAL(地球大規模)~REAGIONAL・ZONAL(震源域間中規模)~LOCAL(局地的小規模)として「大河の流れ」のような捉え方・観方ができる。本年生じた沖縄/台湾(2月2~6日)、熊本(4月16日~)、阿蘇山噴火(10月8日)等は南海トラフ三連動の前奏と見なされるかも知れない。地震発生は「偶然」か「必然」か?「偶然」と考える場合、「今この瞬間の発生は偶然」との観点から確率論に依らざるを得ない。しかし筆者は、地震発生は海底プレートの「大河の流れ」の中で生じる大中小・時空混合スケール(過去・現在・未来)の「必然」現象と考える。それにより「予想・予感」は限りなく「予知・予測」に近づくからだ。地震の「予知・予測」の精度を上げるには、本稿で述べたようなアプローチも含め、各分野・専門で行われている研究成果を総動員して考えることが必要である。その結果が、地震災害に備える所謂“自助・共助・公助”の中でも、特に“公助”の事前対策分野で大いに役に立つと信じて、研究を進めていきたい。

図-8:プレート・テクトニクスの概念


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図-9:海洋底プレートが動く方向


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