電子基準点が捉えた日本の地殻変動〔国土地理院データ〕と地震発生3スケール〔グローバル~リージョナル~ローカル〕相関関係の一考察

~GLOBAL(地球大規模)~REAGIONAL(震源域間中規模)~LOCAL(局地的小規模) ~

日本地震予知学会 第4回(2017年)学術講演会:荻原洋聡

1 はじめに

第3回学術講演会において、1994年から2017年までの24年間に、日本全国で日々発生する震度1以上の地震発生回数を、震源域毎、発生マグニテュード毎に分類・可視化した。単年~24ヵ年間の任意単位の時間スケールでの可視化が得られる(図-1)。

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図-1:1994年~2015年の日本全国地震発生状況


当初は局地的震源域内での群発地震発生状況に注目していたが、24ヵ年分の総観から、地震発生タイミングに関し、隣接あるいは遠隔震源域との間でも、特に以下の3件の地震発生時空間において、顕著な時空相関関係が認められることに気づいた。
(1)2011年の東日本大震災における三陸沖とフォッサマグナに沿った震源域
(2)2000年の① 有珠山噴火②三宅島噴火③鳥取県西部沖地震
(3)2016年の、①台湾で115名の犠牲者発生(2月2~6日)②沖縄③桜島④霧島・硫黄山活発化(2月26日)⑤熊本・大分(4月14日~)⑥阿蘇山噴火(10月8日)⑦鳥取(10月21日~)
そこで、地震はなぜ起こるのか?という原点に立ち還ってみると、今日、地震の原因(駆動力)として考えられているのはプレート・テクトニクス理論〔地球流体規模〕である〔図-2・3〕。太平洋プレート等〔地球海底全面〕の動きは3スケールの駆動力:GLOBAL(地球大規模)~REAGIONAL(震源域間中規模)~LOCAL(局地的小規模)として「ベルトコンベヤー」・「大河の流れ」のような捉え方・観方ができる。
日本周辺においては、4大プレート〔太平洋、北米、フィリピン、ユーラシア〕の境界沿いに、プレート歪が累積より弱い部分に伝播・集中破綻の繰り返しが、一連の地震発生現象・機構と思われる。
本論では、地震発生回数の可視化に基づき、その空間的な位相分布・発生状況に、国土交通省国土地理院による「電子基準点が捉えた日本の地殻変動〔1997年~2016年〕」の地殻水平移動モーション等を重ね合わせることにより、日本周辺を広域の視座・視点から、地震発生状況と今後の推察〔予知には遠く及ばないが心構えの段階〕の一方法を考察する。

図-2: プレート・テクトニクスの概念


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図-3: 海洋底プレートが動く方向


2 2011年の東日本大震災における〔ローカル・スケール〕~〔リージョナル・スケール〕の相関関係

2011年東日本大震災の本震は3月11日1446iとされているが、三陸沖では既に3月9日から津波発生を伴う群発地震が発生しており(図-4右側)、その一連の一つが本震となり、それをトリガーとして隣接する震源域〔岩手沖、宮城沖、福島沖、茨城沖等〕を誘発する大地震に至ったものである。

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図-4:2011年2~3月の東日本地震発生プロット


翌年、東大地震研究所は、震災1ヶ月前より「ゆっくり滑り」地震が2月に北側から南下発生しており〔図-4右側三陸沖及び図-5右側の赤×印〕、3月9日以降の三陸沖群発地震は小さな地震を起こしながら南下して〔図-5右側の青×印〕本震に至ったことを明らかにした。この解析は、震源域別地震発生回数を示すプロットには時空間位相要因が内包されるものの〔プロット自体では明確に識別・表現できない限界を裏付けてもいるが〕、震源域相互間の位相空間での相関を認識させるきっかけとなった〔図-4〕。

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図-5: 東大地震研究所:朝日新聞2012.1.20


3 2000年における〔ローカル・スケール〕~〔リージョナル・スケール〕の相関関係

図-4左側の赤破線で囲んだ部分は、ユーラシアプレートと太平洋プレートに挟まれた北米プレートの末端部分に相当する。筆者が注目するこの赤破線沿いでは、2011年の東日本大震災でもM6以上の地震が多く発生している。2011年から過去に遡り地震発生記録をプロットする中で、2000年に生起した顕著な事象は① 有珠山噴火(3月27日~)②三宅島噴火(8月18日~)③鳥取県西部沖地震(10月6日~)と、日本列島の北東から北西に向かうフェーズで各事象が発生している。ただし、鳥取西部沖地震との直接的な相関メカニズムは不明であるが、有珠山噴火と三宅島噴火は太平洋プレート縁辺部にあることから何らかの相関メカニズム存在の可能性が否定できない。

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図-6:2000年日本全国震源域別地震発生回数


4 2016年の熊本大震災における〔ローカル・スケール〕~〔リージョナル・スケール〕の相関関係

2016年は不意を突かれ、また被害も甚大であったため熊本地震に注目が集まったが、日本全国震源域別地震発生回数〔図-7〕を観ると、①台湾南部で地震が発生し115名の犠牲者(2月6日~)、以後、②沖縄での地震、③霧島・硫黄山の活動活発化(2月26日)等を経て、④熊本地震(4月14日~)と移行した。更に、熊本地震の発生以降は、阿蘇~大分へと中央構造線をなぞるように継続・伝播した。そして⑤鳥取地震(10月21日~)が発生した。
一連の地震発生の時空間位相が、台湾~沖縄~鹿児島~熊本~大分~鳥取と連なっており、ユーラシアプレートとフィリピン海プレートの境界に当たる沖縄トラフ沿いに、更に熊本地震以後、中央構造線(熊本~大分線)へと連動しているように見える。

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図-7: 2016年日本全国震源域別地震発生回数


5 電子基準点が捉えた日本の地殻変動から推測されるグローバル・スケールのバックグラウンドの駆動力
〔国土交通省国土地理院1997年~2016年〕

図-8: 電子基準点がとらえた日本列島の地殻変動から把握できる特異現象〔1997年~2016年〕

出典:国土地理院ホームページ(https://www.gsi.go.jp/kanshi/index.html)
「電子基準点が捉えた日本の地殻変動(水平)http://www.gsi.go.jp/kanshi/index.html#5-2」よりダウンロードし加工して作成


図-8は2016年最終における表示場面で、その他の矢印や、吹き出し注釈等は筆者が認識した事項を上書きしたものであり以下に列挙する。
① 北海道北東部の一様な北西への変位が、2003年9月の十勝沖地震を契機に、襟裳岬付近から以西は左回転し南東への変位が見られる。
② 以後、南東方向に卓越する変位が続くも、北海道から北東北地方に渡り全体的に、太平洋プレートにより北西側へ押し返されている過程が認められる。
③ 東北大の木戸元之教授(海底測地学)は「東日本大震災では宮城県沖だけでなく、岩手県沖の一部までプレートが大きくずれた可能性がある」と分析し、2012年~16年、日本海溝付近の海底の20ヶ所で海底の動きを観測した。年間で岩手県沖は5~10cm西に、宮城県沖は10cm以上西に、福島県沖では約10cm東に動いていた。(静岡新聞NEWS_2017/7/20、産経新聞2017/7/24)
④ 福島県沖から東南東方向に変位が大きい部分は、北米プレートの末端部分がユーラシア・プレートと太平洋プレートから挟まれ圧縮され続けている。同部分が北米プレート後背面から押し続けられて行き場を失っていたところで、東日本大震災を契機に、南東方向に押し出され、はみ出しているように見える。
⑤ フィリピン海・プレート沿いでは、南西諸島の南西側に向かうほど、南南東方向への変位量が増大している。フィリピン海・プレートによって南西諸島沿いにユーラシア・プレートが北西側へ押され、かつ、押し込まれながら、ユーラシア・プレート縁辺部が膨らむ(めくれ込む)過程と認識される。

6 おわりに〔結論及び提言〕

日本全国地震発生プロット、電子基準点の変位累積データ、他研究等によるこれまでの考察を統合し、以下に要点(結論)を挙げる〔図-9〕。
① 日本本土は、4大プレート〔ユーラシア、北米、太平洋、フィリピン〕の地球規模運動により、其々のプレートが、「ベルトコンベヤー」或いは「大河の流れ」のように一方向に背中を押され続けて潜り込む終端場になっている。
② 国土地理院の1997年~2016年〔20年間〕の地殻水平変動の軌跡から、日本列島線主軸を圧(へ)し折ろうとする基本回転外力が常時作用(継続)しているように見える。
③ 左・右回転成分量の推(逆)算から、回転(中心)軸は、北海道襟裳岬南方と紀伊半島沖と四国南方沖にあり、何れも左・右・左回転しているように見える。そして、これら3個の幾何学的回転中心を駆動力とする左・右回転成分を産み出しているように見える。
④ 日本列島全体としては、東北日本・南西日本それぞれが圧(へ)し折られる作用を受けることから、東北日本・南西日本の境界、即ち、フォッサマグナ付近は左右反回転成分によって捻じ切られるような作用を受ける場に相当するようにも見え、地震多発の一要因とも考えられる。
⑤ 相対ストレス伝播の法則(仮称)
地球の寿命スケールの上で生き・生かされている人間の寿命スケールの尺度とは、比較スパンの相違・困難はあるものの、ストレスは何れも最弱部に伝播集中し、発散〔破壊〕する傾向がある。より強い悪ガキに対しては、それより弱い者は反抗困難なため、より弱い部分に歪〔ストレス〕が移動・集中し暴発に至る傾向と類似している。
⑥ 5-⑤で言及したように、南西諸島の南西側に向かうほど、ユーラシア・プレートの南南東方向への変位量が線形に増大している。フィリピン海・プレートにより、南西諸島沿いのユーラシア・プレート縁辺部が膨らむ(めくれる)ように北西側の海底下へ押し込まれている過程が認識される。
⑦ 2016年の台湾~沖縄~鹿児島~熊本~大分~鳥取の一連の地震発生ラインの経緯は、沖縄トラフ~中央構造線に沿うストレス伝播現象と見なせるかも知れない。
⑧ 一方、四国沖~紀伊半島沖(いわゆる南海トラフ付近)で静穏状態が継続していることが、多くの研究で指摘されている。フィリピン海・プレートの沈み込みに対して、ユーラシア・プレート側に何らかの強い引っかかりがあるなど、双方の固着が強くて離れることができないため〔それ故の静穏状態か?〕、相対的に弱い裂け目の方が動いた(裂けた)のが、2016年の一連の地震発生現象と言えないだろうか?
⑨ 即ち、2016年の一連の地震は、南海トラフ地震(三連動含む)の序曲と見なすこともできるのではないだろうか?
⑩ 「災害は忘れたくてもやってくる!」を再認識し、防災・応災・減災にとどまらず、「南海トラフ三連動地震・津波は、遅かれ早かれやってくる!」ことを前提(予測)として、「事前復興計画」を加味した具体的対策を促進するべきと考える。

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図-9:関係要因・要素の統合的概念図


〔参考文献等〕
(1)「電子基準点がとらえた日本列島の地殻変動」
http://www.gsi.go.jp/kanshi/index.html#5-2
(2)「特集・日本海溝移動説」PP26-36.日経サイエンス2017年10月号

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