コンストラクタル法則に基づく日本全国の地震発生状況解釈の一提案

日本地震予知学会第6回(2019年)学術講演会:荻原洋聡

1 はじめに~地震発生は偶然か?それとも必然か?~

日本近傍のみならず、地球上で生起している地震発生データはそれ自体がビッグデータであり、切り口の当て方や解析手法によって、多様な姿・現象パターンが出現するように見える。地震発生は予測・予知不可能とされる不意打ち的現象である。ややもすればビッグデータに対する統計的処理・確率的解析手法に頼らざるを得ない現実がある。それに反し、筆者らは日本全国の地震発生状況を震源域毎・発生マグニチュード階級毎の切り口により、延べ25ヵ年間(1994~2019)分をエクセル表上で、地震発生時系列・時空間分布としてプロットしてきた(図-03)。地震発生履歴の可視化記録(地震絵巻)であり、表上には各震源域に特有な地震発生パターンの特徴・傾向が見い出される。ただし、単一の切り口によって現れる一面の現象・傾向のみを以て地震の本質を断じることは不完全であり、むしろ本質を見誤る怖れがあることと、その限界は十分に認識している。しかし、地震発生現象が必ずしも『確率論的偶然』ではなく、『成る(発生する)べくして成る(発生する)という半ば必然的』な要因もあるとの捉え方ができないだろうか。地震の過去・現在・今後のデータ解析等によって、地震現象の傾向・予想へ、やがては『地下天気(地下地震)予報』の精度向上が期待できるのではないだろうか。地球流体的視点から、そもそも地震はなぜ発生するのか?という原点に立ち返れば、マントル対流を駆動力とするマントルの湧き出しと沈み込みに応じて地球表面の地殻(各大陸/海洋プレート)がベルトコンベヤー・ベルトのように動き、沈み込む場所で地震が多発している定性的事実は明瞭である(図-01)。地球を45億年にわたる一生命体として捉えるならば、地球生命の成長・進化の過程で生じる地殻等の歪解放過程の一現象が地震発生という発露であるとも言える。ビッグ・データの可視化(解釈手法)をテーマに、筆者等は第5回日本地震予知学会学術講演会では、地震発生の歪放出プロセスが、雷の発生~落雷に至るプロセスとの相似性を有することに言及した。また、海底プレート表面及び地上の山脈、谷等の縞模様の発生パターンが、生物の体表の縞模様パターンのように、アラン・チューリングの反応・拡散方程式で近似できるのではないか?という観点での疑問を持ち続けてきたところである。本論では『有限大の閉じた流動系のあらゆるものは、生物・無生物に関わらず、全ての流れを効率化するように発展・進化する(コンストラクタル法則 Adrian Bejan, J. Peder Zane 2013,2019)』との座標軸・観点に基づき地震発生過程の一解釈を試みるものである。

2 地球上及び日本全国における地震発生状況・パターンの実状

図-01は2004~2015年(11ヵ年)にかけて地球上で発生したM5以上の地震発生プロットであり、図-02は日本気象協会が逐次発表している過去の地震データにおける、過去24時間以内・過去7日以内・過去30日以内・過去100日以内の地震発生累積表示プロットである(2019年10月08日1030現在)。図-01と図-02の時間スケールの相違を除けば、空間スケールでの相違は感じられない。すなわち、殆どの地震は大きなプレート境界上・付近で生起しており、換言すれば、生起すべき場所(地域)で生起しているとの直感的表現も的外れではないと言える。また、我々の生存空間の時間における不可逆的一方向性の矢は、過去~現在~未来へと向かっており、過去の履歴は紛れもない事実・歴史そのものである(図-08)。従って過去に発生した或る地震発生に到るプロセスやメカニズムを解明することが、故きを温ねて新しきを知る(温故知新)の道理にも叶い、ひいては現在から未来への見通しの改善が期待できる。
図-03は、筆者らが1994~2019年の25ヵ年間に日本全国で発生した地震を震源域毎・発生マグニチュード毎の累計回数の時空間分布としてプロットしたものである。北海道付近、中央構造線沿い付近、九州・沖縄付近は他震源域に比較して地震活動が活発であると言える。図-03の25ヵ年(四半世紀)スケールの全貌でも、2011年以降は東日本大震災の余震が東北地方に継続的・漸減的に群発している様子が顕著である。その中から特に、単年(1ヵ年)スケールで、図-04「2011(H23)年_東日本大震災」及び図-05「2016(H28)年_熊本地震」に注目する。双方において、図-03における2011年の一列(1ヵ年累計)分を拡大したものが図-04であり、3月11日以降の地震発生が如何に激しいものであったか鮮明に可視化されている。また、図-03における2016年の一列(1ヵ年累計)分を拡大した図-05は、被害が甚大であった熊本地震に意識が集中しがちであるが、2016年2月には100名超が犠牲となった台湾地震後、沖縄近海で群発地震が発生し、桜島噴火後、熊本地震が発生した。その後、中央構造線に沿って這うように地震発生が伝播継続し、年末には鳥取沖地震が発生している。これは沖縄トラフ沿いに歪解放現象(地震)が伝播・発生しているように見える一方、南海トラフ沿いの地震活動は静穏に見える。

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図-01 2004~2015(11ヵ年)の世界の地震発生分布


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図-02 2019年10月08日1030現在の震央分布


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図-03 1994年から2016年までの日本全国の震源域毎における地震発生回数の時空間分布


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図-04 2011年の日本全国地震発生時空間分布


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図-05 2016年の日本全国地震発生時空間分布


3 地震発生状況におけるフラクタル構造とA.テューリングの反応・拡散方程式への類推

コンストラクタル理論とは、A. Bejan等 (2013, 2019)によって提唱される『有限大の流動系が時の流れの中で存続する(生きる)ためには、その系の配置は、中を通過する流れを良くするように進化しなくはならない。』と定義される物理法則である。生物 ・無生物の別なく、動くものは全て流動系であり、流動系は全て、抵抗(たとえば摩擦)に満ちた地表を通過するこの動きを促進するために、時とともに形と構造を生み出す【「地表」の原語は「landscape」 。我々が生息する空間、地球、地球の表面、地上と水中・水上と空中の、往来がある場所を意味する】。自然界で目にするデザインは時とともに流れを良くするように、偶然の所産ではなく、自然に自発的に現れると論じている。
図-03の25ヵ年スケールと、その構成部分となる1ヵ年スケール(図-04における2011年及び2016年)の関係性は、A. Bejanが指摘する生物・無生物に共通する樹状(階層)構造、樹木の樹形(葉、枝、全体構造)に見られるフラクタル構造にも類似している。更に、地震発生回数の時空間分布に、国土地理院が作成した1997~2017年の日本全国GPSの水平移動距離のアニメーション・プロットを重ねて表示したものが図-06である。特に2011年以降、日本全国のGPSデータの水平挙動はそれ以前に比べて劇的な水平方向変動を示している。その20ヵ年の累積水平変位量から逆算・推算すると、日本付近では主として3ヵ所に回転軸を持ち、かつ、連続体として異なる回転方向を有する回転運動が作用しているように見える。これらを統合的に組み合わせると、日本列島は、西日本側と東日本側とでは異なる方向から日本本土を押し曲げようとする2本の単純梁の組み合わせで構成され、その2本の単純梁がフォッサマグナ付近で支点を共有する構造と捉えることができる。日本列島の背骨(脊梁山脈)が逆S字形を形成していることにも符号することは興味深い。このように、地震発生回数とGPS水平移動の変化が対応付けられる一例である。さらに、2016年の台湾~沖縄~桜島噴火~熊本地震~鳥取沖地震と、沖縄トラフに沿う一連の地震発生状況は、現時点では比較的に静穏ではあるものの、何れ発生が予想される南海トラフ地震の予兆現象であると筆者らは理解している。その対策にあたって、可視化を併用する具体的解釈方法の展開が期待できる(図-07)。

図-06 1997~2017年間のGPS水平変位量

出典:国土地理院ホームページ(https://www.gsi.go.jp/kanshi/index.html)
「電子基準点が捉えた日本の地殻変動(水平)http://www.gsi.go.jp/kanshi/index.html#5-2」よりダウンロードし加工して作成


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図-07日本列島に作用している応力背景


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図-08時間の矢と現象の時間スケール


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図-09落雷発生過程と地震発生過程の類似性


筆者らは、「地下天気図(長尾教授)」と「電離層擾乱(早川教授)」のキーワードと、「地震、雷、火事、親父」の4恐フレーズから、大気中の電気放電現象に伴う「雷」発生過程と、大陸・海洋プレート移動による歪蓄積・歪伝播解放現象に伴う「地震」発生過程が極めて類似したメカニズムであることに気づいた(図-09)。
落雷とは、大気運動に伴って大気中に帯電した電荷がその状態解消のために、地面・水面・地上物等に対して放電する現象である。落雷に先立ち(先行放電)、稲妻が約20~50mほどの進退ステップを繰り返す。そして、稲妻が落雷直前の停止位置に到達すると、落雷場所の地面側から上昇リーダー(お迎え放電)が発生、その両者が結合(電路形成)して落雷に到る。稲妻の最終ステップ長と上昇リーダー長の和が電撃距離と呼ばれ、およそ20-200mとされる。
45億年余の地球流体(生命体)としての地殻活動を駆動力とする大陸・海洋プレート移動相互間に生じる歪の静的・動的な蓄積・解放過程は、大小・強弱様々な規模で歪を解放しながら(先行放電相当)、「お迎え放電」に相当する段階として、スロー・スリップ、電離層擾乱、群発地震(余震)、火山噴火等の最終的直前に到り、何らかをトリガーとして「地震(落雷に相当)」に到るイメージである。
そのトリガーと歪解放の方向性を決する主要因、すなわち『有限大の閉じた流動系のあらゆるものは、生物・無生物に関わらず、全ての流れを効率化するように発展・進化する方向を決定するメカニズム』を内包しているものと考えれば、地殻歪の解放(タイミングと方向性)の過程が地震現象であり、コンストラクタル理論によって統一的に記述する可能性が広がるのではないかと考えている。

4 終わりに~「できないという諦め」ではなく、「いつの日かできるはず!」というチャレンジ精神~

古代からの人類の気象体験・知識・知見に基づく今日の高い気象予報精度の原点は、1854年に設立された気象機関のイギリス気象庁にあるとしても200年以上の歴史を有する。他方、観測が比較的容易な数秒スケールの気象変化に対し、地震は年間6㎝程度の海底プレートの時空間移動量スケール(太平洋海底プレートの場合)に基づく現象である(図-10、図-11)。人間寿命の時間スケール(100年)に対しても、地震発生回数自体が稀な上に、大地震前の静穏時期における地震発生の規則的パターンが認識困難である。それゆえに、突発的に発生する地震を5W1Hで事前にピンポイントで予知することは、残念ながら現時点では不可能とされている。果たしてそうであろうか?
筆者らが作成した1994~2019年の25ヵ年(四半世紀)に渡る地震プロットそのものを一望しても、そのデータ数の膨大さから、明瞭な地震発生メカニズムや発生パターンを特定するまでには至らない。しかし、例えば2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震のように、時空間ともに集中発生する事例や、今日の様々な解析手法を複層的に足し合わせ・重ね合わせることによって、地震固有の素顔に近づくことは期待できる。
地震予知に向かっての歩みはゴルフで例えるなら、ホールインワン(地震予知)を究極目標として目指しつつも、まずはグリーンに打ち込んでホールを狙う心構え(地震予測・予感等)を失わず、その足場を固める一助となることを目指したい。そして、その判断基準となる座標軸として『流れとかたち・流れといのち~コンストラクタル理論~』の観点・視点からの現象解析を継続する所存である。

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図-10 地球上の各プレートの挙動


図-11 プレート・テクトニクスの概念


参考文献
1) 流れとかたち-万物のデザインを決める新たな物理法則,エイドリアン・ベジャン(著)柴田浩之(翻訳)2013
2) 流れといのち-万物の進化を支配するコンストラクタル法則,エイドリアン・ベジャン(著)柴田浩之(翻訳)2019
3) DuMAの地下天気図https://www.mag2.com/m/0001672594.html
4) 過去の地震情報-日本気象協会http://www.tenki.jp/bousai/earthquake/entries
5) 電子基準点がとらえた日本列島の地殻変動http://www.gsi.go.jp/kanshi/index.html#5-2

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